4日のうちに、貨物船ハイビスカスで、ビートルとともに九州上陸。5日未明に、宮崎県米良側の市房山五合目登山口駐車場に車をデポ。そこにテントを張り、インヤンさん差し入れのシメイビールで前祝い。
5日。快晴。
入渓地点までビートルで移動。宮崎県米良荘は、熊本県五家荘とともに、平家の落人が隠れ棲んだ場所ということを中学受験で習い、ずっと訪れてみたい所であった。実際に行ってみると、確かに山あいの秘境ではあるのだが、大歩危小歩危の険しさ、桧枝岐の奥深さ、遠山郷の山肌へばりつき具合等に比べると、期待していたほどではなかった。


8:40、本流の一ツ瀬川に入渓し、対岸の境谷、しょっぱなの滝に取り付く。
下流部の岩質はホルンフェルスで、今回初めて履いてみたキャラバンのゴム底シューズではかなり滑る。フェルト底で来れば良かった。右写真、ヌメりに耐えて、登る。


30分ほどで、20m滝。ここは右岸を大きく巻いた。途中、ほとんど垂直の壁に残置の虎ロープがあり、「おお、さすが本土の沢、巻き道まで良く整備されとるわい。有り難くこれを使わせてもらおう」と安易に掴んでしまったが、登り始めると実は非常に悪い。屋久島と違って、ホールドになる立ち木が殆どない。虎ロープが切れないことを信じて、ゴボウで何とかクリア。本当はこんな登り方はダメ!インヤンさんはもう少し遠くの場所を安全に巻いていた。
この沢全体に言えるのだが、あちこちの巻きポイントに、虎ロープや「地籍調査」と書かれたピンクテープがあるが、ベストルートでないものが半数近くあり、それらにあまり頼り過ぎない方がいい。


9:55、この谷最大、50m「神仏の滝」。なかなかの迫力。左右どちらからも巻けそうだったが、この沢6回目のインヤンさんが、左岸の方が速いと教えてくれたので、そちらへ。
が、行ってみるとこんな・・・・。「ここを登るのが一番速くて確実」と教えてもらわなかったら、別ルートを探して右往左往してしまいそうな、高さ4m垂直の壁。

ザックを下して、何とかオンサイトでクリア。Ⅳ級。この谷最大の核心かも。


水流をなるべく外れないよう、果敢に攻めて行く。


左写真の滝は、その上部の滝とまとめて左岸巻き。右写真は、数少ない平流部分。


11:35、左岸に洞窟のある滝。この滝も普通のパーティは巻くようだが、あまり巻いてばかりでは面白くない。インヤンさんはこれまで普通に直登してきたと。でも、滝の濡れ具合と今日の靴底を考えると、ちょっと怖かったので、僕だけザイルを出してもらった。

すぐ次の滝は簡単そうに見えたので、挑戦してみたが、途中でやはり靴底が滑り始める。「神様、お願い、もう二度とこんな無茶はしませんから、今度だけは何とか登らせて・・・」と、久しぶりに思ってしまう登りだった。後から巻いてきたインヤンさんにも、「いやあ、さすがです。ここは普通登りませんよ。」と呆れられてしまった。


ついで、40m2段の滝。でかい。左岸のルンゼ状から大きく高巻き。


この滝は無理だろう、と思ったら、意外やインヤンさんはフリーで登れる、と。下から見上げただけでも高度感があり、かなり怖かったので、僕はここでもザイルを出してもらった。実際登り終えてみても、やはりフリーで登る気になれなかった。人によって、ビビるポイントは違うもんだなあと思う。

この滝を左岸の壁際から登ると、間もなく、14:05、標高949m、本谷(市房谷)との二股に着。支流の右俣に入る。


14:45、標高1025m立岩谷との二股着。左写真、左俣の立岩谷方面。素晴らしいナメが続いており、ついこっちに行きたくなるが、インヤンさん情報では、こちらの良いところはこのナメだけで、総合的には、二ツ岩谷の方が良いらしい。なので、右俣である二ツ岩谷に入る。しばらくは、たおやかな川原歩き。


突如出現、100mスラブ滝。屋久島の蛇の口滝を小さくした感じか。右岸を巻く。
巻いた先には、こんな景色。京都のどんな名庭園でもかなわない、自然石の作り出す小滝。


緩やかなスラブ上、快調に登行を重ねる。


源頭近くなっても、屋久島によくある倒木や藪は一切なく、歩みは快適そのもの。
そして、夕日に照らされたツツジのある風景。私の求める「源頭の風景」の一つの理想形がここにあった。まさに桃源郷。


さらに上がると、古代巨石文明跡のような不思議な場所に出る。16:55、今宵の宿は、こちらで。岩陰には先人が蓄えていた焚き火用の枯れ木まで置かれていて、言う事無し。


焚き火の明かりの中、満月の夜は更けていく。


5月6日、晴。久々にたっぷり寝た。鳥のさえずりで爽やかに目覚める。


8時出発。屋久島と比べて、水枯れポイントは大分下。でも、源頭の藪こぎは殆どないので、水を背負っていても苦にならない。


稜線に飛び出してから、10分ほど夏道(と言っても鎖場がほとんどだが)を北上すると、8:30、標高1671mの二ツ岩に到着。

往路を引き返して、今度はいよいよ市房山を目指す。この稜線は過去には立派な縦走路があり、トレラン大会まで開かれていたそうだが、ここ数年の崩壊は激しく、一部は残置ロープにしがみつかなければ通過できないほど。歩いている靴の先から、石がゴロゴロと崩落していく。氷混じりの冬場に来たらもっとやばいだろう。一般登山者は通行禁止になっている。


恐らく、ツクシアケボノツツジとミツバツツジ。花といい、沢といい(水につかることが殆どなく、巻きは多いので、あまり暑くないこの時季が最適)、べストシーズンに来られた幸運に感謝。


心が汚い人は落ちるという「心見の橋」(左写真)をへっぴり腰で何とかやり過ごして、10:35、市房山ピークへ。これで日本二百名山122座目。一般登山者が十名ほどいた。

11:40、下山開始。帰りの登山道は、まるで、晩秋のような紅葉がきれい。インヤンさんによると、木の名前は馬酔木(アセビ)。春先、光合成が本格化するまでは葉緑素(クロロフィル)が十分でない為、緑色がまだ薄く、赤いアントシアニンが優勢になって起こる春紅葉(はるもみじ)という現象らしい。勉強になるなあ。我が家の庭にも、馬酔木を1本植えようっと。
それにしても、九州の山は、樹木が一本一本、まるでゴルフ場に植栽されたかのように、お行儀良く立ち並んでいる。熾烈な生存競争を勝ち抜こうと、縦横無尽いや傍若無人に伸び散らかり、トゲを出し、あちこち絡まりまくった屋久島の藪とは大違いだ。


ブナ林の明るい林床も大好き。インヤンさんならずとも、トレランをしたくなってしまう。でもスタミナないから5分間だけね。
12:50、五合目駐車場着。その後は人吉の温泉に入って、インヤンさんとは別れ、1人姫路に向かった。
境谷(~二ツ岩谷)は難易度4級上。遡行6回目というインヤンさんにガイドしてもらったから、今回は3級位の感覚でスイスイ突破する事が出来たが、本谷二股までの下流区間は、初見で行ったらルートファインディングにかなり悩まされると思う。直登できるかどうかの見極めが難しい滝がいくつか(僕がザイルを出してもらったところは、巻いても不思議ではないと思う)あるし、巻きも、屋久島に比べてホールドとなる樹木や根っ子が疎らなため、危険度の高い所が多い。そのかわり、巨岩、倒木、藪と行ったウンザリ要素は殆どないので、体力の消耗はあまりない。衣服やサポーター、靴の消耗も屋久島の沢の数分の一ですみ、自分が普段どれだけ過酷な環境で沢登りをしているか、痛感させられた。
入渓地点からまず滝登り、そして次々と現れる大滝群、二ツ岩谷に入ってからは一転してナメの連続、そしてフィナーレは草原の源頭・・・、わずか1日の行程の中に、起承転結が見事に詰め込まれた沢であった。インヤンさんによると、九州本土べスト3に入る名渓ということだったが、そう言われるのも納得の1本であった。案内してくれたインヤンさんに深く感謝。
それにしても、俺って、胴が長いな・・・・・。

Comment

いや~懐かしいですね,境谷。
今振り返ると天候や時期など,ベストな時期に遡行できたと思えます。遡行人さんに楽しんでもらえたのが何よりです。
島の沢に比べると運動量は軽く,ヤブも行儀よくお利口さんばかりですので,今後も名渓をご案内させて下さい。
次の沢も楽しみにしています。境谷に比肩しうる秀渓ですよ。
今振り返ると天候や時期など,ベストな時期に遡行できたと思えます。遡行人さんに楽しんでもらえたのが何よりです。
島の沢に比べると運動量は軽く,ヤブも行儀よくお利口さんばかりですので,今後も名渓をご案内させて下さい。
次の沢も楽しみにしています。境谷に比肩しうる秀渓ですよ。
インヤン | URL | 2015/05/23/Sat 23:15 [EDIT]
懐かしい?いやいや、僕にとっては、まだ、最新の一本ですから(笑)
記録のアップが遅れてすみませんでした。
記録を書きながら、写真を見ながら、実に楽しい沢だったなあと思い返していました。
次回もまた期待してます!!
記録のアップが遅れてすみませんでした。
記録を書きながら、写真を見ながら、実に楽しい沢だったなあと思い返していました。
次回もまた期待してます!!
屋久島遡行人 | URL | 2015/05/24/Sun 00:26 [EDIT]
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